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ウルフ-オオツカ法手術(低侵襲心房細動手術)

ウルフ-オオツカ法とは、心房細動という不整脈に対する手術です。

心房細動について

心房細動は、有病率が全体(30歳以上)で0.9%,70歳以上で2.7%(男性3.5%,女性2.1%)と、比較的多くみられる病気です。 [J Epidemiol 15 : 194―196, 2005.]

心房細動になると、二つの問題が生じます。一つは脈拍が不規則になるということ、もう一つは血栓症のリスクが生じるということです。

<脈拍の乱れ>

心房細動になると、脈拍が不規則になります。症状が軽くて自分では気が付かない人もいますが、なかには脈拍が速くなりすぎたり遅くなりすぎたりして、とても苦しくなる方もおられます。

<血栓症リスク>

心房細動の大きな問題点として、心臓の中に血栓ができやすくなるということがあります。心臓の中の血栓が何かの拍子に血流にのって飛んでしまうと、脳梗塞や心筋梗塞などの塞栓症が起こります。血栓のできやすさについては、本人の苦しさには関係ありません。本人がしんどく感じていなくても、脳梗塞などの塞栓症の危険性があります。

通常時
心房細動
心房細動になると、心房が動かなくなる→左心耳は、肺静脈から左心室という血流の外側なので、左心耳のなかで血液が澱む血液が固まって血栓ができる脳梗塞などの塞栓症のリスク

心房細動の治療としては、血栓ができやすいことに対しては、抗凝固薬という血をサラサラにする薬を飲むという対処が一般的です。また脈拍の乱れに対して、循環器内科で行うカテーテルアブレーションという治療で治療することができます。

しかし、抗凝固薬を飲んでいても脳梗塞などの血栓症になってしまう、抗凝固薬を飲むと副作用で出血が多くなり困っている、という方もおられます。また、カテーテルアブレーションができない、したけれど治らない。という場合もあります。そのような状況で困っている方に対する治療として、以下のウルフ・オオツカ法という治療があります。

ウルフ-オオツカ法とは

ウルフ-オオツカ法は、心房細動に対して①脈を治すことと、②血栓症リスクを減じることを同時に低侵襲で行う手術です。

処理後

左心耳処理後は、血液が澱む部分が無くなる

 ↓

心臓内で血栓ができにくくなる

 ↓

脳梗塞などの塞栓症のリスクが減少

①脈を治すために、心房内にある心房細動の原因となる場所の電気的隔離を行い、②心房細動時に血栓の原因となる左心耳という場所の処理を行います。

ウルフ・オオツカ法は従来の心臓手術と違い、人工心肺という大掛かりな装置が不要で、心臓を止めたりする必要がなく、大きな切開をする必要もありません。

ウルフ‐オオツカ法の意義

  • 心房細動の患者さんの多くは、抗凝固薬という血をサラサラにする薬を飲む必要があります。抗凝固薬には、出血しやすくなるという副作用があるため、脳出血や目の出血などで困るという場合もあります。また抗凝固薬を飲んでいても脳梗塞などの血栓症になってしまうという方もおられます。
  • ウルフ・オオツカ法で左心耳という場所を処理すると、抗凝固薬を飲まなくても血栓症になりにくくなります。[Journal of American College of Cardiology (JACC) 2013;62(2):103-107][Heart Rhythm. 2018 Sep;15(9):1314-1320]
  • さらに、ウルフ・オオツカ法では外科的アブレーションをすることにより、心房細動の脈拍の異常そのものを治すことができます。これは循環器内科のカテーテルアブレーションとは違うアプローチであるため、カテーテルアブレーションで治らなかった方が治るという場合もあります。
  • ウルフ・オオツカ法は、ごく小さな切開でできて、従来の心臓手術よりもかなり低侵襲であるため、高齢であったり、体力が弱い方でも受けることができる場合が多いです。
  • ウルフ・オオツカ法を受けると抗凝固薬を飲む必要がなくなる場合が多いです。生涯にわたって抗凝固薬を飲み続けることと、一回手術を受けること比較すると、患者さん本人が生涯に支払う金額は、手術を受ける方が安価になる場合が多いです。

ウルフ・オオツカ法が望ましい方

心房細動や心房粗動で、

  • 抗凝固薬の副作用で出血して困っている
  • 抗凝固薬を飲んでいても脳梗塞などの塞栓症になる
  • 毎日定期的に薬を飲むことが難しい
  • カテーテルアブレーションで治らなかった
  • カテーテルアブレーションができないと言われた
  • 心房細動に対して、生涯で支払う金額を少なく抑えたい

2022年1月現在、関西では当院以外ではウルフ・オオツカ法を安定して施行している施設はありません。そのため十分認知がされておらず、その治療方法があると知らずに困っている患者さんがいます。

最近は少しずつ認知されるようになってきて、近隣のみならず他県から紹介患者も増加しています。

左心耳について

心房細動になると、心臓内の左心耳という部分に血栓ができやすくなります。ウルフ・オオツカ法で左心耳を処理(切除や隔離)することで、心房細動であっても心臓内に血栓ができにくくなります。

左心耳処理の影響について

左心耳を処理しても、不都合はありませんかと質問されることがあります。左心耳は、正常な心臓では、左心房の容積を少し増やすこと、左心房から左心室に血液を送る勢いを増すこと、心臓に負荷がかかった時に尿量を増すホルモンを出すといった役割が考えられます。

心房細動になると左心耳は動かなくなり、上で挙げた働きができなくなるだけでなく、血栓ができる場所となってしまいます。

左心耳を処理した後どうなるかという研究はいくつかありますが、ほぼすべての研究で塞栓症が減ったと報告されています。また、心不全入院や死亡率が増えたりしないことも報告されています。つまり心房細動の方の左心耳を処理することは、今わかっている限りは特に悪い効果はなく、塞栓症を減らす良い効果があると言えます。

ウルフオオツカ法のQ&A

Q.左心耳を処理すれば、血液サラサラの薬は飲まなくてよくなるのでしょうか?

A.左心耳を処理した場合、心房細動が残存していても塞栓症の発症率は、手術されていない方が抗凝固薬(血液サラサラの薬)を飲んでいるよりも、低くなります。ですから、抗凝固薬(血液サラサラの薬)を飲まなくてもよいと言えると思います。
ただし、どの場合でも塞栓症リスクはゼロではありませんので、少しでもリスクを下げるために、左心耳を処理したうえでさらに抗凝固薬(血液サラサラの薬)を飲むという希望があればそれでも問題ありません。
当院の方針としては、出血などの抗凝固薬(血液サラサラの薬)の副作用で苦しんでいる方は、手術直後から中止とします。特に副作用がない方は、術後1か月間は抗凝固薬(血液サラサラの薬)を飲んでいただいて、以降の中止を検討します。
心房細動以外の塞栓になりやすい素因がある方は、左心耳を処理したうえで、術後も抗凝固薬(血液サラサラの薬)の継続をお勧めしています。

Q.遠方に住んでいるので何度も外来を受診するのが負担です。

A.1回目の来院(初診)で手術の説明および必要な検査、2回目の来院で入院して手術を受けられることは可能です。初診時来院があまり遅い時間でなければ可能です。

Q.術前検査で問題なしの場合手術はいつ頃受けられるでしょうか?

A.初診から手術までは2-3週間ということが多いです。

Q.どのように外来受診をしたらよいのでしょうか?

A.治療の流れですが、まずかかりつけ医療機関からの紹介などで予約を取っていただき外来に来ていただきます。
受診の手続きとしては、かかりつけの先生に紹介状を書いていただいて、その病院から当院の地域医療連携センターを通して予約していただくのがスムースです。
紹介状が無い場合は初診時選定療養費がかかりますが、「お問い合わせフォーム」から、ご相談をしていただいたうえで、ご自身で電話していただいて予約を取ることもできます。
受付から初診までは大体1-2週間程度で、初診から手術までは2-3週間ということが多いです。

Q.外来受診から手術までの流れを教えてください。

A.外来で手術について説明させていただき、特に問題なければその日に術前検査と入院予約をしていただきます。術前検査結果で問題となる点があった場合には、電話させていただいて相談になります。
受付から初診までは大体1-3週間程度で、初診から手術までは2-3週間ということが多いです。

Q.入院後の経過を教えてください。

A.入院期間は、術前2日前に入院して術後5日後くらいに退院されることが多いですが、状況に応じて相談となります。退院後は傷の痛みなどはありますが、特に生活の制限はないことが多いです。
傷の痛みが気にならなくなるまでは個人差がありますが、2日から1か月程度であることが多いです。
術後の外来は、ご希望があれば受診いただけますが、基本的には不要です。

Q.ウルフ・オオツカ法はどの病院でも受けられますか?

A.ウルフ・オオツカ法は、まだ安定して実施している施設数は少ない状況です。淀川キリスト教病院は2023年7月現在、関西で最も手術件数が多いため、これからウルフ・オオツカ法を実施検討されている医師の見学を受け入れており他県・関西以外からの患者さんもよく来られます。

Q.アブレーションと左心耳の切除を同時におこなうウルフ・オオツカ法による手術は従来からのカテーテルアブレーション手術よりリスクが高まると考えてしまいますが、逆にウルフ・オオツカ法の方が従来からのカテーテルアブレーション手術より低リスクと思ってよろしいでしょうか?

A.リスクの比較に関しては、一概にいうのは難しいです。
まず、ウルフ・オオツカ法とカテーテルアブレーションの直接比較の文献はありません。
手術侵襲という意味では、ウルフ・オオツカ法では全身麻酔が必要ですが、カテーテルアブレーションでは全身麻酔が不要ですので、カテーテルアブレーションのほうが侵襲が軽いと言えると思います。
術後の遠隔期のリスクに関しては以下のように考えられるかと思います。ウルフ・オオツカ法でもカテーテルアブレーションでも、脈に関しては術直後に洞調律に戻っても、再発の可能性は残ります。心房細動が再発した場合、左心耳を処理していないカテーテルアブレーションでは塞栓症の心配をしなければならないので抗凝固薬を中止できないこともあります。それに対してウルフ・オオツカ法では左心耳を処理しているので、抗凝固薬なしの状態で心房細動が再発しても塞栓症になるリスクは低いというメリットがあります。
また患者さん毎のリスクも考える必要があると思います。例えば、心房中隔の手術をしていたり、心臓の中に血栓があったりする場合にはカテーテルアブレーションのリスクが高いです。逆に肺が悪かったり心臓の手術後という方ではウルフ・オオツカ法のリスクが高い場合があります。
その他、カテーテルアブレーションで合併症が多い施設よりは、ウルフ・オオツカ法に慣れている施設のほうがアクシデントが少ないとは思われますが、一般的にそれを判別するのは難しいと思います。
以上いろいろ書きましたが、総合すると、患者さんの状況と求めるものが何かによってお勧めすることは異なるといえます。

Q.ウルフ・オオツカ法のデメリット、リスクをお教えください。

A.ウルフ-オオツカ法では、正しい脈に戻すために外科的アブレーションと、血栓症を予防するために左心耳という心房細動の時に血栓ができる部分を処理すること、を行います。従来の心臓手術による心房細動治療と比較すると、大きく切開することなく、人工心肺といった装置も必要なくできるので、はるかに低侵襲です。手術侵襲をカテーテルアブレーションと比較した場合は、カテーテルアブレーションは全身麻酔は必ずしも必要ではないですが、ウルフ・オオツカ法では全身麻酔を要します。
左心耳をカテーテルで処理するWATCHMANとの比較では、両方とも全身麻酔を要し、傷の数はウルフ・オオツカ法のほうが多くなり、手術の合併症は発表されている報告ではウルフ・オオツカ法のほうが少ないようです。ただし、合併症リスクは施設によって異なると思われます。
正しい脈に戻るかどうかという点ですが、ウルフ-オオツカ法ではカテーテルアブレーションでは届かないところまでできる部分がありますので、カテーテルアブレーションで治りきらなかった心房細動が治る場合があります。カテーテルアブレーションを3回4回受けたけれども治らないという理由で紹介いただくこともあり、ウルフ-オオツカ法で治る場合もあります。ただし必ず治るとは言いきれません。

Q.ウルフ・オオツカ法は心タンポナーデなどのリスクも従来からのカテーテルアブレーションより高いでしょうか?

A.ウルフ・オオツカ法ですが、左心耳を切除した場合は断端から血がにじむことがあります。ただ従来の心臓手術やカテーテルアブレーションと違い、術中にはヘパリンという血液をサラサラにする薬を使用しないので出血は止まりやすいです。またカテーテルアブレーションと違って心臓の外観を観察しながら手術をしているので、手術中に出血が止まるのを確認できます。そのため、術後に心タンポナーデになるリスクは高くないと思われます(もちろんゼロではありません)。当院では術後心タンポナーデの経験はありません(2023年7月現在)。
また以前は切除する以外に左心耳処理の方法はなかったのですが、近年は左心耳を切除せずに閉鎖する左心耳クリップというデバイスが使用できるようになりました。このやり方では左心耳は切除しないので断端からの出血という問題はありません。ただし、左心耳内に血栓が残っている患者さんには使用が難しいので、当院では出血のリスクが高そうな患者さんには左心耳クリップを選択して、逆に左心耳クリップが難しい方には従来の切除するデバイスを使用する方針としております。

Q.高齢で抗凝固薬(血液サラサラの薬)を飲んでいるためか、転倒して血まみれになってしまうことがよくあります。また認知症で薬の管理が難しいです。ウルフ・オオツカ法を検討したいがどうでしょうか?

A.高齢で認知症のため抗凝固薬内服に問題(飲み忘れや過剰内服)が予見されるような方の場合、ウルフ・オオツカ法も考えられるかと思われます。

Q.左心耳に血栓があっても手術ができるでしょうか?

A.ウルフ・オオツカ法は、左心耳の先端に小さい血栓があっても施行できますが、血栓が大きかったり場所が悪かったりするとリスクが高くなる場合があります。そういった場合はMICS Maze(メイズ)手術という、人工心肺を使用して右胸部4㎝程の切開で行う方法を相談しています。

Q.手術時間はどれくらいでしょうか。

A.手術時間は90分間程度であることが多いです。左心耳の処理だけだと30分間程度であることが多いです。手術室に行き、全身麻酔をして、目が覚めて病棟で落ち着くまでの時間はプラス2時間くらいかかります。
出血しやすい、肺の癒着がある、内臓脂肪が多い等があると時間がかかったり、少し大きな切開を要したりする場合があります。

Q.ウルフ・オオツカ法で心房細動が治らなかった場合、カテーテルアブレーションの追加はできるでしょうか?

A.もしも脈が治らなかった場合には、術後3か月後以降にカテーテルアブレーションを追加して成功率を上げることができることが多いです。ただ、左心耳を処理していると塞栓症リスクは低減されており、脈の問題による動悸症状などがなければ心房細動のままでも特にデメリットは多くなく、あえて追加治療をする必要はない場合も多いです。

Q.心房細動になったら、ウルフ・オオツカ法を受けることが一番でしょうか?

A.心房細動で動悸や苦しさなどの症状がある場合には、通常でしたらカテーテルアブレーションが勧められると思われます。
心房細動になっていても自覚症状が無いか軽微、血栓塞栓症も発症していない、抗凝固薬を飲んでいても副作用などの問題がない場合には、そのまま内服を続けるという選択肢があるとは思われます。
抗凝固薬をやめたい、よく出血する、もしくは抗凝固薬を飲んでいても血栓塞栓症になったという場合にはウルフ・オオツカ法が勧められると思います。

Q.WATCHMANによるカテーテル左心耳閉鎖とウルフ・オオツカ法の左心耳閉鎖の違いを教えてください

A.左心耳をカテーテルで処理するWATCHMANとウルフ・オオツカ法の比較では、手術適応はウルフ・オオツカ法の方が広く、両方とも全身麻酔を要し、傷の数はウルフ・オオツカ法のほうが多く、抗凝固剤からの離脱確率はウルフ・オオツカ法の方が高いと思われます。
WATCHMANの治療の適応は、心房細動だけでは不足で、出血リスクがある方となります。ですから今まで心房細動以外に病気がないような場合には適応にならないと思われます。
WATCHMANは術後も、アスピリンなどといった抗血小板薬(別のタイプの血液をサラサラにする薬)を生涯飲む必要があります。抗凝固薬は45日後から止められる場合が多いとは思われますが、左心時の閉鎖具合の検査結果によって止められない場合もあるようです。いずれにしても抗血小板はずっと必要となります。
ウルフ・オオツカ法では、左心耳の手術の問題で抗凝固薬を止められないことはほとんどないと思われます。左心耳以外の血栓リスクのために抗凝固薬継続をお勧めする場合もあるかもしれませんが、その場合はWATCHMANでも同様です。
抗凝固剤からの離脱確率はウルフ・オオツカ法の方が高いと思われます。
術後の生活の考慮事項の有無としては、どちらも運動制限などは特にないと思います。薬の観点では、ウルフ・オオツカ法で多くの場合で抗凝固薬を中止でき、WATCHMANでも抗凝固薬を中止できることは多いでしょうが抗血小板は生涯にわたって必要です。
手術の適応の違いから、WATCHMANをされている先生からもウルフ・オオツカ法にご紹介いただくことがあります。

参考文献

  • The New England journal of medicine. 2021 06 03;384(22);2081-2091
  • JAMA. 2018;319(20):2116-2126.
  • Heart Rhythm. 2018 Sep;15(9):1314-1320
  • Journal of American College of Cardiology (JACC) 2013;62(2):103-107
  • European Journal of Cardio-Thoracic Surgery, 2018 July;54(1):78–83