血球の減少の原因を理解するために
血球の減少の原因を理解するために
かなり専門的な内容になってしまいますが、貧血を中心に血液の成分が減っているときの血液内科医の考え方を説明します。
血液は基本的に骨髄で作られます。 骨髄は成熟した赤血球、 白血球、 血小板の元となる若い細胞の居場所であり、 大人の細胞である赤血球や白血球、 血小板に成熟したら血管の中を末梢血として循環できます。 赤血球は大人の細胞ですが、その一歩手前の若い大学生ぐらいの細胞を網赤血球と呼びます。
赤血球が少なくなる貧血を考える上で、 人体を、 肉体という「入れ物」と血液という「中身の液体」に置き換えて考えてみます。 比喩として、 「入れ物=風呂おけ」、 「中身の液体=お湯」として考えてみましょう。お風呂にお湯がたまらないとすれば、 原因は基本的に4つしかありません。
- 断水している (お湯そのものがこない) 。
- 蛇口をひねってもチョロチョロとしかお湯が出ない。
- 洗面器などでお湯をくみ出してしまい消費してしまう。
- 風呂の栓が抜けてながれてしまう。
貧血になる原因も同じ4つです。
- 断水している (水そのものがこない)=赤血球そのものが作れていない
赤血球の材料は基本的にビタミンB12、 葉酸、 鉄、 さらに少し稀なもので銅、 亜鉛があげられます。 中身の液体が作れませんから、 赤血球そのものができません。 - お湯の出が悪い=赤血球産生の効率が悪い
お湯を入れようとしても少ししか出ないのは、 赤血球産生の効率が悪いためです。 赤血球を作る場所は骨髄ですから、骨髄の中の病気は貧血の原因の候補です。 学問的には少し不正確ですが、 赤血球を作る際に骨髄に「間接的に」働きかけるホルモンとして甲状腺ホルモン、 エリスロポエチンがあり、ホルモンの量の異常により骨の中の血液が作れないこともあります。また、鉄分が十分にあっても効率的に利用できなくなってしまう膠原病などの慢性炎症性疾患と呼ばれる病気もここに入ります。 - お湯を消費する=赤血球の破壊、 消費
入れたお湯も消費してしまえば減ってしまいます。 つまり血液が破壊・消費されてしまえば貧血になります。 「赤血球が破壊されてしまう=溶血を来す」ということです。溶血するときにはハプトグロビンという血液検査の項目が下がります。 感染症や薬の副作用による減少も消費の原因になるのでここに入れます。 - 風呂の栓が抜ける=赤血球が体外へ流れ出る
これは出血のことです。 出血する臓器で代表的なものは消化管や女性器です。 これを解決するために手早くできることは蛇口をひねることです。
01,02は、血液そのものが作れない、 または少しずつしか作れません。 つまり蛇口をひねって埋め合わせようとしても解決しません。 大人の細胞にあたる赤血球そのものがうまく作れないので、 その手前の大学生ぐらいに相当する網赤血球も増えません。 裏を返せば「貧血なのに網赤血球が増えていない」=01,02が原因となる病気ということです。 03,04に関しては、 壊れてしまった赤血球や出血で減ってしまった分を埋め合わせようと血液を作る工場である骨髄が頑張ることができるので、蛇口をひねることでやや若い血液の細胞である大学生にあたる網赤血球は増えます。
つまり貧血の原因を判別するうえで 網赤血球の増減を確認することが大切で、その結果により貧血の原因を血液検査で絞りこんで調べることになります。
白血球や、血小板についても赤血球と同様に骨の中で作られる細胞ですので考え方は全く同じです。ただ、赤血球と異なり出血で減ることはないため、上に説明した01~03の原因を調べればよいことになります。
これらを血液検査で調べても原因がはっきりしない場合には、骨髄検査という血液を作る工場である骨の中の検査を必要に応じてすることがあります。
※上記の内容は医療従事者向けのアプリのHOKUTOに教育用スライドとして寄稿したものを簡略化したうえで引用しました。