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#がん#ダヴィンチ・手術支援ロボット

手術支援ロボットを使った婦人科のがん根治手術を開始

体への負担の少ない手術として知られる腹腔鏡手術の特長を活かしながら、さらに優れた機能が加えられたロボット支援下手術。婦人科では、がん治療を中心にロボット支援下手術を開始いたしました。その取り組みについて、腹腔鏡手術の第一人者である伊熊先生とロボット支援下手術の経験豊富な鈴木先生に伺いました。

ロボット支援下手術とは

伊熊 健一郎 産婦人科婦人科内視鏡手術 特別顧問

鈴木 嘉穂 産婦人科部長(以下、鈴木) ロボット支援下手術は、ロボットだけで手術をするイメージがありますが、そうではなく、術者がロボットを操作して行います。当院ではアメリカで開発された手術支援ロボット「da Vinci Surgical System(ダヴィンチ)」を導入しています。腹腔鏡手術と同じように腹部に小さな穴を数ヶ所開け、そこから鉗子やメス、内視鏡(カメラ)を取り付けたロボットアームを入れ、体内の様子を映し出したモニターを見ながら手術を行います。

腹腔鏡手術と違うのは、術者はケーブルでつながれた操作台に座り、画像を見ながらアームを遠隔操作すること。座って手術ができるので、術者への負担が軽くなります。アームは人間の手以上に複雑な動きができ、精密な手術が可能です。患者さんにとっては、腹腔鏡手術と同様に傷口が小さい手術のため、出血量や痛みが少なく、従来の開腹手術に比して術後の回復がより早くなります。

婦人科疾患におけるロボット支援下手術は、2018(平成30)年4月から早期の子宮体がんと子宮筋腫など良性腫瘍に対して保険が適用されることになりました。ただし症例によっては開腹手術の方が安全な場合があり、その見極めが非常に重要です。

伊熊 健一郎 産婦人科婦人科内視鏡手術 特別顧問(以下、伊熊) ロボット支援下手術は突然に出てきた技術ではありません。“100年に1度の大革命”と言われる内視鏡手術が登場して以来、起きたさまざまなトラブルなどを乗り越え、積み重ねた技術を集約して誕生したものです。

日本において本格的な内視鏡手術が開始されたのは1990年頃で、内視鏡手術のうち腹腔内で使用する腹腔鏡手術に私が関わったのも同時期でした。開腹手術とは大きな違いがあり、誰もが経験したことがなかったため、合併症を含めたさまざまなトラブルなどもありました。例えば、従来の開腹手術では組織の切離や止血は糸でくくっていましたが、腹腔鏡手術ではその方法は難しかったためなかなか普及しませんでした。その後、超音波凝固切開装置が開発され、組織をはさむだけで切開や止血ができるようになりました。しかし、別の箇所にあたって臓器損傷や血管損傷などを起こすリスクなどもありました。

また、腹腔鏡手術では気腹といってお腹に炭酸ガスを入れて膨らませることでスペースを作り視野を確保するのですが、その操作で動脈に炭酸ガスが入って起きるガス塞栓などのケースがありました。そのようなことを回避するために手術方法の改善や器具・器材の改良がなされ、安全な腹腔鏡手術ができるようになったのが2000年頃です。そうした10年の積み重ねの中で手術支援ロボットの必要性が高まって登場してきたのです。

鈴木 病院に新規技術としてロボット支援下手術を導入するためには、施設基準や操作に習熟している術者がいることなどの安全基準が設けられています。すでに、当院の産婦人科はその基準に達しています。悪性腫瘍はもちろんですが、良性腫瘍についても症例を慎重に選びながらロボット支援下手術を行います。

安全なロボット支援下手術を目指して

鈴木 嘉穂 産婦人科部長

鈴木 腹腔鏡手術を行うためにはかなりのトレーニングが必要ですが、それに比べるとロボット支援下手術は比較的短期間で高い技術レベルを習得できます。ただし現在の手術支援ロボット「ダヴィンチ」には触感覚がないため慣れが必要です。普通にやっているつもりでもロボットはものすごいパワーがあり、偶発的な臓器損傷のリスクが高くなります。

伊熊 もっとも慣れれば開腹手術より腹腔鏡手術の方がやりやすい場合もあります。特に肥満の患者さんでは、開腹手術だと腹壁が厚く、臓器がおさめられている空間に到達するのが大変な上に、視野が得られにくくなります。しかし内視鏡手術なら空間が確保されるので小さな穴から器具を入れてかえって安全に正確な手術ができ、手術が終わった後の閉腹はトロッカー(筒)を抜くだけですので簡単です。それはロボット支援下手術でも同じことです。また、患部を拡大してモニターに写し出されます。当初は画像がよくありませんでしたが、現在では3Dや4Dなど高画素の立体画像で、目で見ているのと同じような奥行きで確認できます。

さらに術者だけでなく、助手、麻酔科医、看護師など全員が同じ次元の動画を共有しながら手術を進めます。録画もでき、後から再現して確認することもできます。また、私は「コスモサージェリー」につながると言ってきましたが、インターネット経由やスマホででも海外や宇宙に画像を送り、遠隔操作で手術ができるようにもなるでしょう。しかし、決して忘れてはいけないのは、従来の開腹手術法でなければできないことがあるということ。重要なのは、トラブルが起きたときのリカバリーです。これはロボット支援下手術では無理な場合があります。

鈴木 私は前にいた病院でロボット支援下手術を行い、安全性に関して危険性も含めて経験していますが、すべてを知っているわけではありません。伊熊先生は腹腔鏡手術において日本のレジェンド中のレジェンドで、腹腔鏡手術の歴史についてはもちろん、どういったところに問題点があるのかもよくご存じです。ロボット支援下手術を行うにあたり、伊熊先生にチェックしていただき、起こりうるリスクを教えていただきながら取り組めるので、患者さんに安心していただけることと思います。

悪性腫瘍を患う関西の女性の強い味方に

伊熊 私が2017(平成29)年4月から淀川キリスト教病院で勤務させていただいているのは、これまで日本内視鏡外科学会や日本産科婦人科内視鏡学会の理事を務めるなどいろいろなことに携わり、特殊な手術や良性疾患を診てきた経験を伝え、人材を育成することにあると考えています。私自身は子どもさんができない方に対して、体外受精などを行う生殖医療にも取り組んできました。そして、良性腫瘍に対する腹腔鏡手術も行ってきました。しかし、悪性腫瘍やロボット支援下手術にも力を入れなければいけないと長年思っていたところ、今年の4月より婦人科腫瘍専門医の鈴木先生の当院所属が実現し、全てが整うことになり非常に心強いです。そうして地盤を作ることで若い先生方が育ち、高いレベルで充実した医療を提供していきたいと思っています。

鈴木 婦人科腫瘍専門医という女性性器がんの予防や診断、治療を包括的に行うことができる専門医はあまり増えていない現状があります。その専門医を育成するためには認定施設にならなければなりません。当院は周産期医療や良性腫瘍に対する内視鏡手術についてはすでに認定施設になっています。悪性腫瘍に対しても認定施設になれば若い先生方が研修としてもどんどん来てくれ、淀川キリスト教病院にとっても好循環につながります。

伊熊 大きな目標として「東(関東)に負けるな」を掲げ、関西の病院として婦人科腫瘍に対して充実した医療を提供するメッカとなるようにしていきたいと思います。

そして、最後にお伝えしたいことがひとつ。開腹手術は傷が大きく大変な手術をしたとわかりますが、腹腔鏡手術やロボット支援下手術は体への負担が少なく、回復が早いため、簡単な手術だと見られがちです。しかし、きちんと体を休めずに家事や仕事を始めると、後々に反動がきます。特に女性は家に帰るとやることがたくさんあります。当院では、ロボット支援下手術や腹腔鏡手術であっても、大変な手術を受けられた中で、入院生活のひと時でも安心して療養のできる環境を守って差し上げたいと思っています。

鈴木 ゆっくり療養されると、退院後の生活がとても楽です。これは非常に大事なことだと思います。悪性腫瘍で悩まれている方、治療先を考えている方は、ぜひとも一度ご相談ください。

受診の際のご注意

当院を受診の際は、かかりつけ医を通じて当院「地域医療連携センター」でご予約をお取りください。

取材日:2021年6月2日

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