患者さんの能力を最大限に活かし治療を円滑に行うための認知症ケア
淀川キリスト教病院では、超高齢者といわれる90歳以上の入院患者さんが年々増加しています。超高齢者になるとどうしても認知機能が衰え、治療を行う上での妨げになることもあるそう。こうした認知症患者さんにまつわる問題の予防や対応に取り組み、可能な限り安全かつ円滑に治療を進められるよう支援する「認知症ケアチーム」の役割が重要になっています。認知症患者さんにどのように関わり、何を目指すのか、認知症ケアチームに話を聞きました。
薬よりも関わり方を重視したケア
上田 認知症の方は環境が変わると混乱しやすく、自身の病気や治療について正しく理解・判断ができなくなることがあります。そうなると、点滴を自分で抜いてしまったり、検査やお薬の内服を拒否したりするなど、治療がうまくいかなくなります。そうした状況を防ぐためのケアが必要だということで、認知症ケアチームが立ち上がりました。
瓜﨑 当院では「認知症高齢者日常生活自立度判定」で、認知機能低下から介護が必要な患者さんを選定し、毎月80名ほど私たちが介入しています。チームが立ち上がった当初は月50名程度だったので、ここ2〜3年で急増したと言えます。

脳血管神経内科主任部長
“認知症の方でも、その人の能力を活かせる環境づくりに努めます”
上田 2017(平成29)年にチームができたときはまだメンバーも少なく、患者さんが眠れないときや混乱したときの薬の提案ぐらいにとどまっていました。でも薬はあくまでその場しのぎであり、万能ではありません。そこで認定看護師さんによるケア指導とともに、介護福祉士さんの力も借りて、院内デイサービスを企画することになりました。今では院内デイサービスは認知症ケアにおいて大きな役割を担っていると思います。
患者さんの残存機能を活かして、できることをサポートし、不安を改善

認知症看護認定看護師
“日常生活を観察・評価し、言葉にできない患者さんの代弁者になります”
瓜﨑 薬を使うと鎮静が強くかかって、日中は寝て夜に起きるというように生活リズムが崩れることが多々ありました。薬を第一選択にするのではなく、日中の活動を促すことで夜の睡眠導入につなげたり、コミュニケーションをとったり、体操や運動などで気持ちを安定させるのが院内デイサービスの主な目的です。
興山 季節をテーマにした会話、ゲームや作品作り、唱歌や童謡を歌って昔を思い出し、体操で体を動かして心身のリラックスにつなげます。お一人につき週2回、1回あたり1時間15分のプログラムを行っています。デイサービス以外にも、必要であれば介護福祉士がベッドサイドで一緒に話したり作品作りをしたり、個別のアクティビティケアも行っています。
瓜﨑 認知症の方は時間、場所、人を認識する力、「見当識」が低下しています。見当識が低下すると自分の居る場所や周囲の人との関係性がわからなくなる上、特に入院すると見知った家族と離れてしまうこともあって、容易に混乱・孤独化して不安な状態に陥ってしまいます。その対策として、時間や季節を伝えるなど、見当識を維持するリアリティ・オリエンテーションを意識した関わり方を取り入れています。
また、デイサービスに参加すると表情が変わる方もおられます。病棟ではできなかったことができたり、しっかりとお話しできたり、普段は見られない一面が見られます。
興山 デイサービスは、その人らしさが表れる場所なんだと思います。歌が得意だったり、体操が得意だったり、塗り絵が得意だったり、その人らしさを発揮できる機会を提供するという意味もあると思います。
上田 医師はケアよりも治療に目が行きがちですが、患者さんの違う一面を知ることで、安静度制限を変えることを考えたり、治療方法を考え直してみたりするきっかけになります。
患者さんが積極的になれる雰囲気作り
瓜﨑 当院では、急性期治療中でも、身体拘束を最低限にする取り組みに力を入れています。「認知症マフ」もその一つです。一つの病棟で認知症マフを実験的に導入した段階で拘束用ミトンの使用が半分ぐらいに減りました。そのため今年度から全病棟に配置できるようにしました。認知症の方だけでなく、糖尿病の血管障害で血流が悪いため手が冷たくなっているような方にも喜ばれています。認知症マフを取り入れたきっかけは、当院のボランティアさんに提案していただいたことでした。
上田 認知症ケアチームは薬剤師やメディカルソーシャルワーカーなど各職種が集まった10名ほどのチームですが、活動の中では看護師、介護福祉士、ボランティアさんなど多くの人たちと関わります。

介護福祉士
“患者さん一人ひとりに寄り添い
安心して穏やかに過ごせるよう関わります”
瓜﨑 認知症の方の日常生活を活性化するという役割上、職員同士でも明るく楽しい雰囲気作りを心がけています。
興山 楽しいと感じると、普段動かない方でも積極的に動こうとしてくれます。楽しくケアをしているという雰囲気作りは、認知症の方をケアする上でとても重要ですね。
認知症マフ

認知症マフは、イギリスで生まれた筒状の毛糸の小物です。筒の中には毛糸玉や編みぐるみの人形などが付いていて、それらを触って感触を楽しむことができます。またカラフルなデザインによる視覚的な刺激や、過敏になって落ち着かない手をニットで温め、穏やかにする効果も期待でき、認知症患者さんの不安を和らげる助けになります。
取材日:2024年11月