腎臓を切り口として全身を診る、ジェネラルな診療
長らく当院に貢献された吉田俊子前センター長に代わり、今年4月から冨田弘道主任部長が透析センター長に就任しました。冨田医師もすでに10年にわたり当院で診療に当たっています。今号では、腎臓内科と透析センターの取り組みについて、冨田主任部長と髙折佳央梨医師に聞きました。
腎臓内科はどんな診療科でしょうか?
冨田 心臓や肺、胃腸に比べるとなじみがないかもしれませんが、腎臓が何をしている臓器か、そして腎臓内科はどんな疾患を診ているか、皆さんはご存じでしょうか。
腎臓の働きは「体液の量や組成を一定に保つこと(=体液の恒常性の維持)」です。大浴場やプールには、水をきれいにする浄化槽という装置が設置されていますが、体にとっての浄化槽に相当するのが腎臓です。具体的には、血中の老廃物の排泄、体液の量や組成(イオンや酸性・アルカリ性のバランス)の維持、血圧の維持、ビタミンDの活性化、赤血球を産生するホルモン(エリスロポエチン)の分泌です。従って、われわれ腎臓内科の仕事は「腎臓の病気を診ること」と、その結果として起こる「体液の異常などを診ること」になります。
腎疾患への対応についておしえてください。
冨田 まず、「腎臓の病気」について。腎臓の病気には、腎炎、腎不全(急性、慢性)、結石、悪性腫瘍などがあります。「腎炎」は、腎臓自体に起こる病気です。主に「糸球体腎炎」を指して言うことが多いですが、間質性腎炎という疾患もあります。健康診断で、検尿異常(尿潜血や尿蛋白)を指摘されたときは、糸球体腎炎の可能性が疑われます。必要があれば積極的に腎生検(針で腎臓の組織の一部を採取して、顕微鏡で見る検査)を行い、確定診断に基づいて、ステロイドや免疫抑制剤や抗体医薬品など、疾患に適した治療を行っています。
慢性的に腎機能が低下した状態が「慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)」です。CKDの治療目標は、「腎機能の温存」と「心臓血管系合併症予防」になります。薬物療法だけでなく、管理栄養士による栄養指導や、腎臓病療養指導士による療養指導も併せて行い、診療を助けてもらっています。まだ低下した腎機能を元に戻す治療方法はありませんが、以前に比べると、かなり長持ちをさせることができるようになってきました。
ちなみに、腎臓の病気のうち、結石やがん、尿管、膀胱、前立腺などの疾患は泌尿器科が診ることになります。泌尿器科は、腎臓内科に対する「腎臓外科」と、婦人科に対するいわば「男性科」の領域を担当しています。
次に、「体液の異常」について。体液の異常とは、Na、K、Ca、リンといったイオンの濃度の異常や、酸性アルカリ性バランスの異常のことです。食事療法で改善できることもありますが、利尿薬を使ったり、点滴のメニューを変更したり、あるいは透析をしたりと、病態や緊急度・重症度に合わせて対応しています。非常に精密にできた腎臓の機能を考えながら診療を進めるので、腎臓内科の本領が発揮されるところでしょう。
高血圧も重要な問題です。高血圧は、腎臓内科だけが診ている疾患ではありません。しかし、腎臓はレニンという血圧を上げるホルモンを産生していますし、塩分の排泄を介して血圧を調節している臓器ですので、当科にとって高血圧は中心課題の一つです。そして何より、CKDの患者さんが腎臓を長持ちさせるための有効な方法の一つは、十分な血圧コントロールになります。
他には、「アフェレシス」といって血液の中にある病因物質を取り除く治療がありますが、そのような対応も行っています。
透析についても教えていただけますか
髙折 CKDの治療では、進行をなるべく遅らせることに注力しますが、それでも毎年、新たに透析が必要になる方が日本で年間4万人弱いらっしゃいます。CKDのステージ分類の5(GFR<15ml/min)になると、腎代替療法が視野に入ってきます。実際に透析を始めるのは、日本ではeGFR5前後になります。
腎代替療法としては「血液透析」、「腹膜透析」、「移植」の3種類があります。血液透析は週3回通院が必要ですが、医療従事者と頻回に顔を合わせるためちょっとした体調不良などにも迅速に対応できます。
腹膜透析は患者さんご自身で行う在宅医療になるため、時間の制約は少ないですが、自己管理が重要となります。移植は腎臓を提供してくれるドナーが必要ですが、腎不全による体調不良が改善し、時間的な制約もなくなるため、身体的・精神的・社会的な生活の質は向上します。ただし、拒絶反応を抑える免疫抑制薬を終生内服する必要があります。それぞれのメリット・デメリットを考慮し、ご本人とご家族、そして医療従事者で時間をかけて話し合い、患者さんにとってベストな療法を選択していただきます。
淀川キリスト教病院ならでは、と思うところはどこですか。
冨田 2017年に腎臓病療養指導士(※)という資格制度ができました。当科では制度開始当初から複数名のスタッフがこの資格を取得しています。長いこと付き合っていくことになる腎臓病に対して、チームとして専門性の高い療養指導を行っています。もちろん、スタッフの知識のブラッシュアップにも励んでいます。
髙折 外来透析センターの特徴は、総合病院なので、他科の診療が必要な場合はスムーズに相談できるところです。なるべく入院せずに元気に通院いただけるよう、スタッフと情報を共有し、早めに対処しています。足の血流が悪くないかフットチェックしたり、血液透析の命綱であるシャントに問題ないか定期的に超音波検査を行ったりと、スタッフによるきめ細やかなケアを日常的に行っています。
冨田 CKDや透析をされている患者さんが、他の科に入院されることもあります。そのようなときは、入院された科での治療がスムーズに進むよう、当科の医師も一緒に診させていただいて、食事内容や点滴、処方の調節、入院中の透析などを行っています。スタッフ一同、皆さんに正確な診断に基づいた治療ができるようがんばってまいりますので、新体制となりました腎臓内科を、よろしくお願いいたします。
※腎臓病療養指導士とは、看護師、管理栄養士、薬剤師が取得できる資格です。自分の専門領域だけではなく、職種を超えてCKD(慢性腎臓病)療養全般に対する共通の知識をもち、腎臓病患者さんの療養指導などに当たります。
取材日:2024年5月