ザ・ヨドキリ

トップページ  YODOKIRI  高度医療  健康寿命を延伸するスペシャリストたち 〜痛みのない手術で、痛みのない生活を〜

#手術支援ロボット

健康寿命を延伸するスペシャリストたち 〜痛みのない手術で、痛みのない生活を〜

淀川キリスト教病院では、2019(令和元)年より関節外科・人工関節センターを設け、膝・股関節だけでなく指・ひじ・肩の人工関節置換術も行っています。同センターにおける人工関節置換術と、その治療の特性についてお話をうかがいました。

専門性と利便性を兼ね備えた施設

鈴鹿 当院が関節外科・人工関節センターを開設した背景には、東淀川区、淀川区界隈には人工関節治療を専門に行う施設が少なく、適切なタイミングで治療を受けていただきたいとの思いがきっかけになっています。変形性関節症などで痛みを抱える患者さんにとって、淀川を越えて市内中心地まで毎度足を運ぶのはお辛いでしょうし、開業医の先生方も紹介先にお悩みになっているともお聞きしていました。

髙松 特に私が専門とする上肢、手の外科も同様で、大阪の北部で手の外科を積極的に行っている病院は少ないため、指・ひじの人工関節置換術ができる施設が必要だということで当センターに参加する運びとなりました。

髙松聖仁 整形外科主任部長、医務部長、関節外科・人工関節センター長

他科と連携できる総合病院の強み

鈴鹿智章 整形外科副部長、関節外科・人工関節センター副センター長

鈴鹿 人工関節手術が必要な方の多くはご高齢で、内科的な病気もお持ちであることがしばしばです。例えば、私は心疾患があるから、透析をしているから、いやそもそも歳だから、と自身で手術自体を諦めておられる場合もあります。その点当院は総合病院として関連する内科の先生方もさることながら、手術時にお世話になる麻酔科の先生方のバックアップ体制も非常に手厚いため、このような方々でも安心して手術を受けて頂けるというストロングポイントがあります。

織田 関節リウマチの患者さんは少し前までは40・50代の女性が多いと言われていましたが、近年60・70代の高齢発症症例が増加傾向にあります。関節破壊抑制効果の高い治療薬が様々出てきておりますが、中にはどうしても関節破壊が進んでしまう患者さんもおられます。その場合は人工関節置換手術が有用な選択肢となりますので、リウマチ膠原病内科と連携しながら保存的な薬物療法と手術療法の「良いとこ取り治療」ができる体制となっています。

髙松 当センターは大阪の民間病院の中でも多くの症例数を診ています。合併症があっても対応でき、なおかつ大学病院のように長い手術待機期間もない、患者さんにとって身近な立場で専門性の高い治療を提供できると自負しています。

疼痛コントロールで手術も安心

髙松 人工関節の手術は痛いというイメージを持たれている方もおられると思いますが、当院では麻酔科医の協力のもと手術中から選択的神経ブロックを開始し、手術日の夕食以降からは痛み止めの点滴と飲み薬にリレーをしています。つまり痛み止めが途切れないようにすることで、続くリハビリへの意欲を促進しています。また当センターの強みのひとつである筋肉を全く切らない手術、所謂MIS(最小侵襲手術)が翌日からの術後リハビリテーションへの移行に拍車をかけています。やはり痛みのない方がリハビリにも入りやすくなります。悪いイメージだけで手術を避けるのではなく、できるだけ多くの方に手術を受けていただきやすいよう様々な工夫をしています。

最適なタイミングを計って手術

鈴鹿 開業医の先生方やその他医療機関からのご紹介で患者さんを受け入れておりますが、実はすぐに手術の話を進めるわけではありません。まず関節のコンディションをチェックすることから始め、例えば筋肉が少ないために関節に負担がかかって痛みを発症しているなら、かかりつけ医のもとでリハビリをして筋肉量を増やすなど、程度が軽い場合は保存的治療を優先し、痛みや関節の変形が進行したタイミングで手術加療をお勧めしています。当院リハビリテーション課メンバーの協力の下、運動量や歩行能力などさまざまな要素から、その患者さんが現状で人工関節手術を受けるとこのぐらいで退院ができ、来月からはこういう生活ができますよ、といったふうに過去のデータから今後のビジョンを明示できるのも特長です。

織田 関節リウマチの患者さんは骨が弱っていて、骨粗しょう症の有病率が健常者よりも高いと言われています。また高齢者も増えてきており経年的な関節の変形も起こっていて、さらにリウマチによる関節破壊も起こることがありますが、骨粗しょう症もリウマチも良い薬が出ているので早期に関節がつぶれることは以前と比べて少なくなっています。リウマチ膠原病内科と連携しながら患者さんの病状、進行度合いを見て、適切なタイミングで手術を提案させて頂いております。

織田一貴 整形外科医長

手術精度を上げるデバイスを導入

鈴鹿 股関節の手術では、患者さん個々のCTデータをもとに適合した人工関節の形状やサイズ、設置位置までを術前計画としてデータ化し、それに基づいて手術をアシストする術中ナビゲーションをセンター開設当初から導入しています。また膝関節では昨年12月から、大阪府では初となる最新の手術用ロボットを導入しました。

こちらは術前準備が数分で整う上、人間の手では不可能な角度0.5度、長さ0.5ミリメートル単位という驚異的な精度での骨切りや人工関節設置を可能にします。また骨のどの部分をどう削ると、患者さんの靭帯のバランスや軟部組織の緊張度がどう変化するなどの術後の仕上がり予測モデルが瞬時にモニター上に具現化されるという素晴らしいシステムです。しかしながら決して盲信するわけではなく、術者の経験則と見解をロボットと擦り合わせながら活用しています。

人工関節の耐用年数は約20年

織田 膝・股関節の手術の入院期間はだいたい2週間ほど。退院後は1カ月、3カ月、6カ月、12カ月以降は半年ごとにこちらで定期的なチェックを受けていただきますが、患者さんには必ず整形外科のかかりつけ医を持っていただいています。人工関節手術を行っても、体重が増えたり筋肉量が減ったりすると痛みが残ったり、動きにくくなりますし、骨粗しょう症が存在すると人工関節にゆるみが生じたりします。関節を治すだけではなく、痛みなく動いていただくことが目的の治療なので、継続的に診ていくことが大切です。

髙松 指の場合、手術の翌々日ぐらいからリハビリを始め、2〜3週間後のリハビリの達成度合いを見て退院を決めます。非常に専門性の高い領域なので、退院しても1~3カ月ごとに1度は当院でチェックし、普段はかかりつけ医のもとでリハビリや飲み薬の処方をしていただきます。適切にフォローすれば、人工関節の耐用年数は10~20年ほどと言われています。

医師からのメッセージ

鈴鹿 歳だから、もうあまり動くこともないからと手術を避ける方もいらっしゃいます。一度ご相談いただければ手術以外にもアドバイスできることが多いかと思いますので、痛みがひどくなる前に、関節のコンディションをチェックしに来てください。

織田 リウマチで薬の効果が思わしくなかった方でも、手術によって安定している方がたくさんおられます。お困りの方は、ぜひご相談いただきたいと思います。

髙松 お箸を持ったり字を書いたり、ほかにも日常生活で手を使う場面は多く、人間にとって手は特殊な器官と言えます。痛みや不具合があれば生活に困ることもあることと思います。手術以外の治療の選択肢も提示できますので、不便を感じる方は遠慮なく足をお運びください。

受診の際のご注意

当院を受診の際は、かかりつけ医を通じて当院「地域医療連携センター」でご予約をお取りください。

取材日:2023年6月

YODOKIRI一覧へ戻る