こどもホスピスは、難病や小児がんの子どもたちとご家族の癒やしと楽しみを支える“第二の家”
ホスピスというと、がんなどで終末期を迎える患者さんの看取りという印象を持たれるかもしれません。しかし、実際のこどもホスピスは明るく、笑顔にあふれ、子どもたちは日々成長しています。淀川キリスト教病院は、アジアで初めて医療型こどもホスピスを開設。医師や看護師、コメディカルスタッフがチームとなって、小児がんや難病の子どもやご家族がより良く生きられるように支えています。その取り組みについてご紹介します。
鍋谷 まこと
統括副院長、小児科主任部長 兼 クオリティ管理部部長 兼 全人医療部部長 兼 国際部部長
当院は日本のホスピスの草分け的存在
こどもホスピスは、1982(昭和57)年に世界で初めてイギリスのオックスフォードで開設されました。脳腫瘍の子どものケアに疲労困憊するお母さんを見て、シスター・フランシスがその子を預かったのが始まりです。
日本では、2007(平成19)年に当時の天皇皇后両陛下がそのホスピスを訪問され、アットホームな雰囲気に感銘を受けられたのをきっかけに開設の動きが高まりました。2009(平成21)年にシスター・フランシスが来日された際には当院を訪問。成人ホスピスのプログラムを日本で最初に始めた歴史があり、「この病院にこどもホスピスを作ってほしいとおっしゃいました」と鍋谷医師は振り返ります。
2012(平成24)年に当院を現在の場所に新築移転するタイミングで、日本初のこどもホスピスが誕生。同一施設に成人ホスピスとこどもホスピスが併設されている施設は世界でも希有です。小児難病児は、夜間でも体調に変化があったときには、小児科当直医が対応しています。また、小児がんの子どもの体調管理は、小児科の医師だけでなく緩和医療内科の医師も一緒に診療にあたっています。
こどもホスピスと成人ホスピスの違い
「成人ホスピスは、主に終末期のがん患者さんの入所が多いのですが、こどもホスピスは、ご家族の休息のために小児がんや難病のお子さんを一時的に預かるレスパイトサービスがメインです」と鍋谷医師。例えば、人工呼吸器がついているお子さんをご自宅でケアするとなると、痰の吸引やチューブが抜けないようにご家族は24時間気を張っていなければいけません。それゆえ「レスパイトサービスを利用して休息していただきたいのです。その間に普段寂しい思いをしている兄弟姉妹をうんと甘えさせるというお母さんもいらっしゃいます」と岡山看護師は笑顔で話します。
もっともレスパイトサービスは医療型短期入所という福祉制度がベースのため、利用には行政が発行する重症心身障害の証明書が必要です。小児がんでの利用は、主な治療を受けている子ども病院や大学病院などの医療施設からの紹介状が必要です。
“第二の家”として楽しく過ごせる場所
「当院のこどもホスピスは、“第二の家”がコンセプト。医師や看護師、薬剤師、栄養士、リハビリスタッフなどがチームとなり、お子さんやご家族の希望を聞き、癒やしや安らぎを感じながら過ごしていただけるように支援しています。ご兄弟も含め、ご家族で一緒に過ごせる個室(ホスピス利用の場合に限る)や、遊びや勉強ができる部屋、あかりに癒やされる部屋などいろいろあります。毎日14時からはイベントの時間で、手遊びや歌遊び、製作をするなどみんなで楽しく過ごしています。
当院ならではの取り組みもあります。臨床パストラル・カウンセラー(PCCAJ認定)がいるのもそのひとつで、お子さんやご家族の魂の痛みに寄り添っています。例えば「命のことを聞いてくるお子さんもいて、お母さんが『そんなことを考えているんだ』とびっくりされます」と岡山看護師。「命や天国の話など避けてしまいがちな話題もしっかり話すことで、子どもたちは気持ちの整理がつき、前向きに生活できるようになります」と鍋谷医師は魂の痛みに寄り添う重要性を説きます。
岡山 佐江
看護部 こどもホスピス看護課 課長
こどもホスピスで過ごし、前向きな生活に変化
さらに、当院ではリハビリテーションを行っているのも特徴です。「歩けなくなった子がリハビリで歩けるようになり、手を使えるようになると、こんなことがしたいと目標を持つことができます」と鍋谷医師。亡くなるお子さんもおられますが、ご家族は「ここには楽しい思い出がいっぱいです。大阪にこどもホスピスがあって良かった」と言ってくださいます。
「安心して預けていただけるように、信頼関係の構築に努めます」と岡山看護師。鍋谷医師は「こどもホスピスというと消極的な印象をお持ちになる場合が多いと思いますが、ポジティブなものを作り出すところと理解していただけたらうれしいです」とおっしゃいます。今後もそれを目指し、お子さんとご家族を支えていきます。
こどもホスピスってこんなところ
取材日:2022年12月24日